走って家に帰ったあたしは、そのまま家族に『ただいま』と挨拶をすることもなく、自分の部屋に飛び込んでバタンとドアを閉めた。

静かな空間に響くのは、ハアハアと上がった自分の呼吸。


力なく荷物を床に落として、そのままペタンと座り込む。

そして、胸元のネックレスにそっと触れる。


……今日はとっても楽しかった。

りっくんと誕生日に、初めてデートらしいデートをして、とても幸せだった。


優しく、大事にしてくれる、りっくんが好き。


──そう思えたはずだったのに。

今度こそ忘れられそうだったのに。


何で……なんで。


今、あたしの頭の中に浮かぶのは、りっくんの顔じゃない。


あたしの名前を呼んで、腕を掴んで、あたしを見つめた……大地くんの顔。

そして、消し去りたいのにしっかりと覚えている、大地くんの柔らかな唇の感触。



「っ、なんでよっ……」



あたしは堪えきれず声を上げ、握りごぶしを床に叩きつけた。


大地くんのことばかり考えてしまう自分が、信じられなくて──。