暫くゆっくり飲んでいると、とても良い気分になってきた。素敵な演奏会の後に、良い雰囲気のバーで美味しいお酒。幸せ!

「ご機嫌ですね。記者さんはどんないいことがあったのかな。…お洒落な格好だし、もしかして、デート?」

 マスターの問いに「ふふっ。これは──」と答えようとしたその時。

 ガタンと音がした。横に座っていた男性が勢いよく立った音のようだと気付いたときには、男性は財布からお金をカウンターに置いていた。

「帰る。」

「あの、うるさくしてすみませんでした。」

 不機嫌そうに見えたので謝ると、じっとこちらをみつめてくる。よく見るととても整ったお顔。モデルと言ってもいいような高身長。すらっとした体躯にマッチした顔。切れ長の瞳とまっすぐ目が合い、思わずそらしてしまった。

「…ばーか」

「?!」

 な、なぜに、ばか?ばかって馬鹿?え、なんで見ず知らずの人にこんなこと?!

「おいおい、飲みすぎたのか?一人で帰れるか?ごめんね記者さん」

「い、いえ」

 何が何だかわからないまま、そのカクテルを飲んでバーテンダーさんと少し話した後はおとなしく帰宅した。