「これ。」
加賀宮さんが持っているのは、私が土曜日に早速洗濯したTシャツ。それが何か。
「柔軟剤がくさい。」
「え?」
「あと、自分で洗うので。」
はぁぁ?!柔軟剤はもともとこの家に置いてあるやつだし!しかも別に貴方のパンツみて欲情したりしませんけど?パンツ見られて嫌とか乙女か!!などと心の中で罵倒しながらニッコリ笑って「分かりました〜」と返すので精一杯だった。
脱衣所でバッタリ会えば嫌な顔するし、お風呂上がりにリビングに行くと逃げるように自室に戻るし。世間話の一つもしていない。
今朝だってそうだ。
とても張り切って作った、炊き立てご飯に味噌汁、鮭の塩焼きに卵焼き、サラダにフルーツ。
「おお豪華な朝食だね!花音ちゃんさすが」
隆文さんは褒めてくれた。加賀宮さんは黙って着席し、手を合わせると、黙々と食べた。凄い速さで!
気に入ってくれたのかな、と思っていた矢先。
「朝はパンがいい。もっとシンプルで。」
と言い残し自室に去って行った。
「加賀宮くん、夜遅くまで楽譜読んだりしてるみたいだからー。ごめんね、花音ちゃん。」
「ううん、私こそ、勝手に張り切って…」
「花音ちゃんも仕事してるんだし、家事はできる範囲でいいよ。真知子ちゃんは花音ちゃんが心配なんだ。だからここに住むよう無理やり理由を作ったようなもんなんだ。僕だって洗濯や掃除も出来るし、食事はいつでもデリバリーに頼ればいいからね。無理しないで。」
「うん、隆文さん、ありがとう。」
隆文さんを見張るのが真知子ちゃんの重要ミッションだと思うけれど、それは言わなかった。隆文さんが大学講師も務めてるの心配なんだろうな。
そうしてお皿洗いを引き受けてくれた隆文さんにお礼を言って私は出社したのだった。



