「はじめましてこんにちは!今日からこちらで家事代行をします百瀬花音です。」

「…よろしく。」

 目の前には壁のように高い男性が、いかにも寝起きという格好で不機嫌に立っている。
暗いグレーのスウェット上下にボサボサ頭。表情はよく見えないが、ニコリともしてないのは分かる。ああーこれどうしたら。隆文さーん!



ピンポーン

 4月初めの土曜日。私は最小限の荷物を持ち、実家の前に立っていた。今日が家政婦デビューの日なのだ。

ピンポーン

あれ、出ないな。貴文さんに連絡したら今日来てねって言ってたのにな。

ピンポーン

 3回目のインターホンの音が鳴り止むとしばらくして玄関のドアが開いた。
そして冒頭の見知らぬ男性が立っていたのだ。

 今日家政婦が来ることは隆文さんから聞いているようだが、どうやら眠りを妨げたようで、不機嫌な空気が圧迫面接でも受けているかのように責めてくる。

「あ、あの私、真知子さんの姪なんです。真知子さんは私の母の妹にあたるんです。」

「…そうですか。」

 関係性を説明してみた。しかし見事な無関心!イケメンだかなんだか知らないけど、愛想がないのはいただけないな。

「あの、お休みのところ鍵を開けていただいてありがとうございました。…もうプロ活動もされてるんですよね。邪魔にならないよう気を付けますが、何か気になることがありましたら、何でもおっしゃってくださいね。」

「…あぁ。」

感じわっる!

ではまたご飯できたらお知らせしますね〜と言って自室に戻る。

感じわっるっ!!

 そりゃ私は師匠の血縁なだけであって師匠でもなんでもないけども。家事を引き受けるんだからもう少し愛想よく接してくれたっていいのに。