「本当にいいの?」

 希先輩の確認に、荒木さんはうなずく。

「本当にその条件で、モデルを受けてくれるなら……」

「お、俺は反対です!」

 冗談じゃない! 

得体の知れないヘンな奴になんて、絶対に関わりたくない。

「動画編集なんて、今どきスマホでだってやろうと思えば出来るのに、うちのパソコンが使いたいだなんて……。そんなの、自分たちでやればいいじゃないですか」

「ダメかな……」

 荒木さんの視線は、希先輩を追った。

いつもクールな先輩が、それを察知してわずかにうろたえる。

「そ、それは……。私は別に……」

「圭吾は人物に興味ないから、だからそんなこと言うのよ。いつも風景とか植物ばっかりでさぁ」

 みゆきが声をあげた。

そのまま背の高い荒木さんを見上げる。

「わ、私が荒木さんに、モデルをお願いしてもいいってことですよね……」

 端正な顔は、美しく微笑んだ。

「もちろん。編集作業、教えてもらえる?」

「部長! 私が教えます。だったらいいですよね!」

「う、うん。それで、写真部全員がモデルをお願いできるなら……」

「もちろん。その覚悟でお願いしに来ました」

 イケメンスマイルが炸裂する。

ノックアウト! 

そこからは早かった。

あれよあれよという間に日程が決まってしまう。

「じゃあ……。みゆきちゃん、お願いできる?」

「ハイ!」

 くそっ。

どいつもこいつも簡単に手懐けられやがって。

俺はちらりと舞香を盗み見た。

いまの彼女は、いったいどうなってしまっているのだろう。

見た目にはなにも変わらない。

完全に普通に見える。

去年同じクラスではあったけれど、特に接触があったわけではないから、そもそも普段っていうのが分からないワケではあるんだけど……。

まぁ、そもそも、俺の方から女の子に積極的に話しかけることなんてことも、基本的にないし、ましてや向こうから来るなんてことは、当然全然全く皆無なワケなんだけど……。

荒木さんが俺にささやく。

「ところで、舞香とはどういう関係?」

「去年同じクラスだったってだけです」

「えぇ? 『星空』フォルダーなのに?」

 驚いたようなその大げさな表情は、演劇部ゆえなのか元々の素なのか……。

どう返事をしていいのか分からず、動揺を隠せない俺に、彼はクスッと微笑んだ。

「そっか、そこからなんだな。了解」

 爽やかな笑顔で手を振って、彼らは部室を後にした。

嵐のようなその去り際に、舞香と目が合う。

彼女は俺に向かって、小さく手を振った。