「面白い?」

 そう尋ねても、返事はなかった。

希先輩はそのハクにあれこれと話しかけ、世話を焼こうとはしていたけれど、それにも全くのお構いなしだ。

無反応過ぎるハクに、ついに希先輩はさじを投げた。

「何考えてんの」

 俺がサラサラと黒すぎる髪に触れようとしたら、それは払いのけられた。

意識はあるらしい。

上演は再開され、俺はまた舞台下を撮影班として、ちょろちょろと動き回る。

芝居が終わって、大きな拍手が沸き起こり、ようやく息を吐き出した。

「おつかれ」

 山本とハイタッチ。

「片付け手伝いに行こう」

「圭吾はその子連れとけよ」

 山本と希先輩は、さっさと舞台袖に行ってしまった。

俺は明るくなった客席で、ハクの隣に腰を下ろす。

「どうする?」

 無言のまま、彼女は俺の手を握った。

そりゃ舞台袖に上がりたいのは分かるけど、こんな小さな子を連れて行くのはダメだよなぁ。

かといって、本当は幼くないコイツの扱いを、どうしていいのかも分かんないけど……。

目が合った。

ハクは俺の手を引いて、撤収作業の始まる舞台下まで近寄る。

「えっと、ここまでにしとこうね」

 慣れない口調とちぐはぐな会話に、ドッと汗をかく。

その場に立ち止まると、彼女はじっと何かを目で追いかけている。

何を見ているんだろう。

顔を上げると、舞香と目が合った。

「圭吾。先に帰っててよかったのに。あぁ、ハクを任されちゃったのか」

 ハクは壇上の彼女に向かって、小さな白い手を振った。

「うん。一緒に帰ろう。待っててね」

 以心伝心? 俺には何も聞こえないのに……。

ハクは何かを言いたげに俺を見上げたけど、そんな目で見られても俺には分かんないよ。