「おいチビ。お前もさっさと帰れよ。お前みたいなのがここにいたって、いいことはないだろ。俺みたいな、悪い奴に捕まって売られる前に、さっさと帰れ」

「お前なんか嫌いだ! 宝玉さえ見つかれば、すぐに帰る!」

「じゃ、舞香。公会堂の件、しっかり頼んだぞ」

 荒木さんの姿が見えなくなるのを待って、ハクは舞香の胸に飛び込んだ。

彼女もハクをぎゅっと抱きしめる。

「ゴメンね、また意地悪されちゃって……」

「いいんだ舞香。奴の言うことに間違いはないのだから」

 ハクは彼女の腕の中で頭をもたげた。

「私だって、本当は早く天上に戻りたい。ここに来ているということが見つかっては、相当に不味いのだ。舞香に出来るだけ、迷惑はかけないようにする」

「うん。大丈夫だよ。一緒に見つけるって、決めたのは私だから」

「少し頭を冷やしてくる。何か見つかるかもしれないし……」

 ハクは空へと舞い上がった。

やがてその姿も小さく見えなくなる。

彼女は溜まっていた涙を拭った。

辺りはすっかり薄暗くなっている。

「ごめんね。圭吾も、もう帰るよね。結局邪魔しちゃった」

 あのヒトに乱された髪が、彼女の頬にかかっている。

直す指の先は、それをくるりと耳にかけた。

「荒木さんは、からかってるだけだと思う」

「それでも、気に掛けてくれていることは確かだから。実際手伝ってくれてるし」

 それはそうかもしれないけど……。

「圭吾は……、そんなつもりはないんでしょう? 関わりたくないんだったら、口を出さないでほしいな。ハクのこと、あんまり大勢の人に知られたくないし……」

 彼女の横顔が沈む。

きっと怒っているに違いない。

腹を立てているんだ。

ムカついてる。

イライラして、このままじゃきっと……。

「分かった。じゃあもう聞かない」

「うん。その方が、うれしい……。かも」

 沈む夕陽が、真っ赤に空を染めている。

俺はもう、ここから動けない。