「他に……、なかったらね」

 演劇部員たちの声が聞こえた。

俺たちは同時に顔を上げる。

彼らは舞香に呼びかけると、手を振った。

あぁ、もうここでお終いだ。

彼女は駆け出してゆく。

そのまま行ってしまう後ろ姿に、目を反らした。

撮影に行かないと。

彼らの話す声が、ここまで響いてくる。

俺はすぐ目の前にあった植え込みに向かってしゃがみ込み、そこにレンズを向ける。

固くて丸いつぶつぶの葉を、画面に収めた。

「ねぇ、圭吾も一緒に体育館、行かない? 写真部のみんなも来てるって」

「あぁ、保存データがいっぱいになっちゃった」

 ランプが点滅している。

ここにはもう、何も入る余地はない。

「部室戻って、保存してくる」

「そっか」

「うん。……。じゃあ、後で」

「分かった」

 その場を離れる。

絶対に後ろは振り向かない。

だってそんなことしたって、いいことなんてなにもないの、知っているから。

取り囲む校舎と放課後の景色に、力強く一歩を踏み出す。

誰にも負けないくらい強く、ゆっくりと。

俺はこの場から、立ち去るんだ。

 部室に戻って、ようやく息を吐き出す。

誰にも気づかれないため息をついて、パソコンの前に座った。

そのまま画像の整理をしていたら、いつの間にか来ていた山本は画面をのぞき込んだ。

「お前、相変わらず風景とか動植物ばっかなんだな。ほら、この写真なんか悪くないと思うけど」

 指を指したのは、遠くから演劇部員を写した写真だ。

舞香の姿もある。

「風景もいいけど、人物の方が強いよ。いや、マジで。人が関心のあるのは、やっぱり人だからな」

「二人でなんの話ししてんの?」

 みゆきまで一緒にのぞき込む。

「あー! 何だかんだで、やっぱ演劇部撮ってるんじゃん。うん、コレ、悪くないと思うよ」

「俺のことはいいって」

 これ以上なにか言われないように、急いでページをめくる。

画面に荒木さんが現れた。

教室の窓辺にたたずみ、深く落ち着いた視線で、その視線がレンズを捕らえている。

「この荒木さん、なんか雰囲気あっていいね」

「そうかな」

 白銀の龍に、本当の彼になる直前の姿だ。