「ここにお前たち以外の、誰かが来なかったかと聞いている!」

 荒木さんと目があった。

だが彼は何も答えない。

「……。お前、ハクなんだろ?」

 俺がそう言うと、彼女はキッとにらみつけた。

「そうだ。ハクだ。舞香の姿を借りて来た」

 彼女は俺の胸ぐらを掴むと、グッと引き寄せた。

「何かがここに来ただろう。その姿を現さなかったのか?」

「何もないよ」

「コイツも私の正体を知っている」

 荒木さんを指さした。

同じようにその胸ぐらを掴む。

「お前も圭吾が私の正体を知っていると、知っていただろう。何があった!」

「知らねぇよ。手を放せ」

 その彼女の手を、荒木さんはあっさりと振り払う。

「何だか知らないが、俺はお前らに一切興味はない。いまは撮影中だ。邪魔をするなら、出て行け」

 もの凄い形相でにらみつける彼女を、荒木さんは平然と見上げている。

ハクはチッと舌を鳴らすと、教室を飛び出していった。

「なんだアレ。二重人格かよ」

 荒木さんはふぅと息を吐き出すと、俺を振り返った。

「お前も物好きだな」

「……。何がですか」

「応援はするよ」

 龍に取り憑かれているのは、この人自身なのだろうか。

それともあの白銀の龍が、元々こういう性格なのか……。

理解の追いつかない俺は、まだ混乱している。

「おい。写真はもう撮らなくていいのか? 終わってんのなら、俺も行くぞ」

 正直ムカついてもいるし、怒ってもいるけど、結局なにを言っても無駄なんだろうな。

すましたその顔を、正面から撮ってやる。

パシャリと動作音が鳴った。

本当にこのヒトは、もう何も分からないのか……。

「荒木さんは、ドラゴンを見ても、なんとも思わないんですか」

「俺の人生に関わりないのなら、どうだっていい」

「……。そうっすよね。関係ないっすよね」

「当たり前だ」

 そう言って立ち上がったそのヒトを、じっと見上げる。

俺にちゃんとした判断が出来るかどうか、それは分からないけど、いま目の前にいるこのヒトは信用出来ると、その言葉になぜかそう思った。

 荒木さんが教室を出て行く。

俺は部室に戻り、撮影した画像をチェックした。

画面には人の形をした荒木さんの、窓辺にたたずむ姿しか写っていなかった。