ようやく梅雨が明けて、本格的な夏がやってきた。

俺はいつものように朝のぎゅうぎゅう詰めのバスに揺られ、学校へ向かう坂道を上る。

「おはよう」

 写真部も夏のコンクールとその展示会へ向けて、作品作りが本格化し始める頃だ。

「おはよう」

 偶然一緒になった舞香は、相変わらず肩先で黒髪を揺らしている。

「何か進んだ?」

「何が?」

 照りつける日差しは朝からキツくて、上り坂を歩いて上らないといけない俺たちには、少し辛すぎる。

「圭吾の方は?」

「俺?」

「希先輩が、これから忙しくなるって言ってた」

「まぁね」

 忙しくって、なんだ? 

写真展とコンクールのこと? 

それとも、宝玉探しのこと?

「……。校内で、2人しか参加枠がないから。展示会前に校内選抜があって、投票で選ばれた2枚が、コンクールに出展できるんだ。展示会は、普通に全員参加出来るけど……」

 そうだ。

これから俺は、沢山写真を撮らないといけない。

今年のテーマは何だったっけ。

そういえばまだ、聞いてなかったな。

「そうなんだ」

「演劇部の方は? 練習進んでるの?」

「今年は部長の気合いが違うからね」

 そうやって微笑む彼女の表情が、どうして俺にはいつもより、眩しく見えてしまうのだろう。

直視できない。

「何だかんだで脚本も決まったし、練習は本格化してるよ」

 彼女は演者でもないのに……。

小道具で、撮影係で、マネージャー的な人だから、本質的な所には、関係してないのに……。

「そっか。頑張ってね」

「ありがとう」

 手を振って別れる。

クラスが違うから靴箱の位置も遠くて、わざわざ会いに行かなければ、すれ違うことも話すことも何もない。

同じ学校の同じ校舎にいながら、無関係に過ごす人間の方が圧倒的に多いんだ。