「こんなところで寝てて、平気なの?」

「大丈夫なんじゃないかな」

「透明じゃなくても?」

「透けてないってこと? 人によって、時と場合で見え方が違うらしいよ」

「なんだそれ……」

 便利なのか、便利じゃないのか。

「気分にもよるんだって。本人の。宝玉ないから不安定なんだって」

 呼吸に合わせて角が上下し、時折もごもごと口を動かしている。

呑気なもんだ。

「そうえば、どうなったの?」

「なにが?」

「えっと……」

 なにがって、そんなの聞かなくたって分かるだろ。

俺にそれを言わせようってのか? 

パソコンから聞こえてくる演劇部のセリフは、3倍速で流されている。

何度も聞いて知っているはずのセリフなのに、何を言っているのか分からない。

「演劇部の大会用脚本」

「あぁ、部長がこだわってるあれ?」

 彼女の顔に、ようやく笑顔が浮かんだ。

「オリジナルでやりたいからって頑張ってるけど、どうなんだろうねー」

 彼女の手はマウスを動かす。

壇上で続いていた、芝居の一部を切り取った。

別の角度で撮った映像をそこにつなぐ。

彼女に笑顔が戻ったのなら、それが正解だ。

問題ない。

だけど、切り取られてしまったその映像に、俺は覚悟を決めた。

「その脚本、舞香は面白いとは思ってないの?」

「分かんない。面白いとは思うけど、実際他の人からみたらどうかだなんて、分かんないよね」

「……。あのさ……、俺……」

 突然部室の扉が、勢いよく開かれた。

「お疲れー!」

入ってきたのは、希先輩だ。