梅雨の季節がやってきて、雨の日が続く。

それが何よりも辛いのは、外での撮影が難しいこと。

雨に濡れた緑の若葉は美しいと思うけれど、カメラに収めるとなると一人では難しい。

傘を肩と首の間に挟んで、ピントを絞る。

跳ねた水滴がレンズに飛び散って、撮った画像も歪んでしまった。

「圭吾はなんで体育館に来ないの?」

 希先輩の声だ。

なんだか話しをするのも、久しぶりのような気がする。

俺は傘を片手にカメラを抱えていて、彼女は渡り廊下の屋根の下を身軽に通り抜ける。

「狭いし蒸し暑いから」

「はは、らしい答えだね」

 目の前を3人の女生徒が通り過ぎた。

カラフルで可愛い傘が並ぶその後ろ姿を、彼女はすぐに画像に収める。

「うちも学校外に公認URL取得して、作品アップしようかと思ってるんだけど。どうかな」

「いいんじゃないですかね」

「その作業、お願い出来る?」

「……。部長からのお願いなら……、基本断れないっすよね」

 希先輩からのお願いなら、なんだってするさ。

「ま、いま思いついただけの話しだから、本当にそうするのかどうかは、分かんないけど」

 彼女は笑った。

その笑顔にカメラを向けられるのなら、どんなによかっただろうと思う。

だけどもちろん、そんなことは出来なくて、俺はただため息をつく。

「冗談で言わないでくださいよ。本気にしたらどうするんですか」

「別にいいけど?」

 降り続く雨は止む気配もなくて、希先輩はトタン屋根の下でにこりと笑った。

「私、体育館行こーっと」

 ひるがえる制服のスカートの裾に目をそらす。

今さら演劇部のいる体育館になんて、行けるわけない。

別に特別な理由なんてなにもなくて、ただ俺の撮影対象がそこにないってだけだ。