「ここにね、それはそれは小さな祠があって、それが……。まぁ、昔の話しなんだが」

「……それって、この学校の出来る前の話じゃないすか? 50年以上前の話ですよね」

「え? そうだっけ?」

 普通、そんなことに興味ある? 

どうしてそんなことを知ってる? 

体が震えている。

それをこの人にバレないよう、隠すのに精一杯だ。

「学校の歴史とかに、なんでそんなに詳しいんですか?」

「まぁ、舞香に聞いてみるといいよ」

 ブルブル震えながら見上げる俺を、彼はじっと見つめている。

微かに微笑んだ。

「邪魔したね。もう行くよ」

 スラリとしたその姿が、完全に見えなくなるのを待っている。

それを確認してから、急いでスマホを取り出し、学校ホームページを開いた。

資料室にあった学校史のパネルが、そのまま載せられている。

その画像には確かに祠は写っているけど……。

そんなの、気にする? 

もしかしてこの人も、彼女の秘密をしっているのかな。

だとしたら『協力者』の一人?

「……。なんだよ、他にも仲間がいたんだ」

 そりゃそうだよな。

どうして自分だけが、特別だなんて思ったんだろう。

急に何もかもがバカらしくなって、芝生の上に寝転がる。

淡い空に消えそうな雲が浮かんでいて、それをカメラに収めた。

こうやってここに寝転がっていれば、いつか俺にも不思議なことが起こったりするのかな。

宇宙人が攻めてくる? 

魔法や超能力が使えて、ゾンビ倒せたりする?

「なにしてんの?」

 ふいに現れた舞香が、俺をのぞき込む。

スカートの中が見えそうで見えないのに、飛び起きた。

「な、なにも……、別に何も見えてないよ!」

「圭吾はここが好きだな」

 そう言って、池とフェンスの向こうの森を交互に見比べている。

「私も初めてここを見た時、よいなと思ったんだ」

 それだけを言って、くるりと背を向けた。

「……。なんの用?」

「用がないと、来てはいけないのか?」

 特になんの用もないことくらい、そりゃ知ってるさ。

俺に用のある奴なんて、そもそも滅多にいないし、あっても大概そんな時は、ロクなもんじゃない。

この演劇部の動画編集作業だってそうだ。

だけど、そんな理由でもなければ、きっと彼女と話すこともなかったんだろうな。

下からマジマジとのぞき込んでくるその全く遠慮のない物腰に、俺は若干どころか、だいぶ引いている。