「早かったんだね、ありがとう」

 本当は、俺に出来ることなんてほとんどなくて、自分の使ってるのと同じアプリをダウンロードして、ちょっとしたチュートリアル的なものに付き合って、それでお終いなんだ。

何にも分かっていない彼女は、真剣に話しを聞いている。

俺はその横顔に少し罪悪感を覚える。

実際に使ってみないと分からないからとかなんだとか、知ったような知らないような話しをして、何か役に立ったのかな。

彼女の白く細い指が画面を滑る。

その指は本当に、普通の女の子に思えた。

「お芝居とか好きなの? 演劇部って」

「ううん。私は友達が最初に入ってて、それで人が足りないから手伝ってって。だから、裏方専門なの」

 傾けた耳元から、髪はさらさらとこぼれ落ちる。

頬にかかるそれをすくい上げる瞬間を、俺がいまカメラを持っていたら、きっと撮影しただろうなと思った。

「今はスマホでも……随分性能いいから……。容量はないけど、動画とかも普通に撮れるし……」

「普通にね」

「うん。普通に」

 目と目があって、微笑む。

彼女は学校SNSの、写真部タイムラインを遡り始めた。

「この中に、圭吾の撮影した画像もある?」

「うん、あるよ」

「どれ?」

 小さな画面に額を寄せ合う。

彼女のスマホの、その滑らかな肌に触れた。

「これと、これ。あ、これもかな?」

 写真部の主な活動範囲は、校内だ。

そこなら腕章をつけてさえいれば、文句を言われることも少ない。

部員がそれぞれに選んだ校内の画像が、次々とスマホのなかで入れ替わる。

調子よく流されていた画面の、その動きを彼女の指はふいに止めた。

「ねぇ、これはどこを撮してるの?」

「あぁ、これは正門横の第一校舎、2階資料室で……」

「資料室?」

 昼休み終了5分前のチャイムが鳴った。

もう教室に帰らないと。

「行こっか」

 そう言った俺と、彼女の視線がぶつかる。

「……。あっ、ちょ……。ま……。では頼む」

 ガタリと勢いよく、彼女は立ち上がった。

その反動で椅子がひっくり返る。

そのことに一切動じる様子を見せないまま、彼女は俺を見下ろした。

「どうした。行くぞ。案内いたせ」

 だらりと肩からぶら下がった両腕が、スマホストラップのように揺れた。

「案内って、どこへ?」

「どことはなんだ。その中に写されたば……って、もう昼休み終わっちゃうよね。教室戻らないと。あははは……」

 倒した椅子を慌てて戻すと、彼女は俺に手を振った。

「じゃ、また放課後ね!」

 小走りで廊下を曲がってゆく。

俺は完全に言葉を失ったまま、その背中を見送った。