「ちょ、だからちが……」

「まぁまぁ許してやってよ」

 山本の腕が俺の肩に乗った。

「しっかり俺が言い聞かせておくから。何かヘンなこととか、されそうになったら、いつでも俺に相談して」

「私も!」

「私にも。いつでも相談してね」

「だからなんでそうなるんだよ!」

 俺がどれだけ訴えても、全員「まぁまぁ」としか言わないし、否定すればするほど墓穴を掘っているような気が、自分でもしている。

舞香は「私、バス停反対方向なんで」とか言って先に帰っちゃうし、みゆきと希先輩も信号を渡って違う路線へ行ってしまった。

山本と二人取り残される。

「……。お前さ、いくら気になるからって、犯罪だけは犯すなよ」

「ないって!」

 猛烈にイラつく。

だけど、あの日見たことを誰かに話して、信じてもらえるかどうか。

それをやってみる勇気も自信もない。

夕暮れのバスに揺られながら、赤く染まった街並みを眺める。

もーいやだ。

学校行きたくない。

なんで俺がこんなことで悩まなくちゃいけないのか。

駅で山本と別れると、俺は電車に乗った。

すっかり暗くなった車内で、窓ガラスに映る自分の顔を見ている。

1年の頃の舞香って、どんな感じだったっけ。

別に普通だったよな……。

彼女の記憶をたどりながら、俺はその振動に体を預けていた。

 不幸な偶然は続くもので、その翌日には、ぎゅうぎゅう詰めのバスから下りたところで、登校途中の舞香とばっちり目が合ってしまった。

「あー……。おはよう……」

 さすがに無視するわけにもいかなくて、何となく隣に並ぶ。

彼女も一緒に歩いてくれているけど、並んで歩くその距離感が微妙にぎこちない。

森の中を貫く地獄の坂道を、一直線に上ってゆく。

どうしよう。

昨日の誤解を解かないととは思うけど、好きだとか好きじゃないとか、そんなことを説明して話すのもむちゃくちゃカッコ悪いし、逆に失礼じゃない?

「あのさ。俺、別に……。えっと、変な目でっていうか……その……。普通! 普通に思ってるから……」

 彼女の黒い髪が肩先で揺れて、そのままプッと吹き出した。

「うん。分かってるよ。大丈夫だから、私も普通にするね」

「はは……。ありがとう……」

 にっこりと微笑むその笑顔は確かに眩しいけれど、『普通』に見られる自信はない。

本当に何とも思ってないのか、それとも俺に見られていたことを知らないのか、彼女はやっぱり『普通』に見える。