ママの手料理 Ⅱ

あの飴と0823番の話のおかげで、記憶は全て戻っていたと思ったのに、この違和感は何だろう。


以前も感じた事のあるその違和感に、私は眉を寄せた。



『この花の名前は…花言葉は、“君を忘れない”』


『もし、熱を出したあの日以前の事で何か新しい事を思い出されたりした場合は…緑のボタンを押して下さい』


0823番の言葉が、津波のように私を飲み込む。



「私は、何を忘れてるの?」


そう小さく呟いた瞬間、私の頭の中でキーンという音が鳴り響き。



「っあ、…いやあぁあぁああっ!」


暫く感じていなかったあの恐ろしい頭痛と、また闘う羽目になった。


頭を押さえ、激痛で目も開けられないまま、傍にあったベルを決死の思いで鳴らす。



けれど、飛んできた0823番と甘い香水の匂いを身にまとった女性の声は何一つ聞こえなくて。



私は、意識を失った。






「…ん、」


誰かの鼻をすする音が聞こえ、私は薄らと目を開けた。


「目が覚めましたか、0114番様」


そこには、目に涙を溜めた下僕の姿があって。


「0114番様、あれから2日間もお眠りになられていたんですよ…!もう、目を覚まされないのではないかと心配で心配で…」


全く状況把握が追いつかない私に、本当に良かった、と、0823番は泣き笑いをする。