それは、俺も同じだった。


指名制の予約は、夕方までに店に電話をするかインターネット上でしか出来ない事になっている。


こんな夜に自分宛に電話がかかってくる事なんて、今までにもない事だった。


「うん。お前のお客様は、その間俺が見とくから」


「ありがと」


カズヤは俺に向かって軽く頷き、


「ナミちゃーん、ちょっとの間俺とお話してよ?ね?」


イケメンモードを全開にしながら彼女の元に駆け寄って行った。


それを見届けた俺は、店内の隅の方にある受話器を手に取った。


「お電話代わりました、大也です」


『………』


「もしもし、大也ですが。…聞こえていますか?」


『………』


(え、切れてる?)


そう思って受話器を一旦耳から外してみるものの、電話は切れていないようだった。


(いたずら電話かな?)


そう思いつつ、もう一度受話器を耳に当てると。


『……あの、大也、』


掠れた小さな声が、聞こえた。


「……え、」


瞬間、俺の思考回路は停止して。


ただ、受話器からの声だけは、辛うじて耳に届いた。


『…大也、…だい、や』


何ヶ月も聞きたくて聞きたくて堪らなかった声が鼓膜を震わせ、ついでに俺の涙腺まで震わせる。







「……紫苑、ちゃん?」







俺は掠れた声で、電話の主の名前を呼んだ。