ママの手料理 Ⅱ

(げ、ぼく……)


どこかで聞いた事のある響きだ。


失礼致します、と言う声と共に部屋のドアが閉められる音を聞きながら、私は大きく息を吐いた。



此処は何処だろう。


私は、何をしているのだろう。


大叔母さんは、昨日からの高熱のせいで私の記憶が混乱していると言っていた。


あの0823番だって、私を小さな時から世話してくれている下僕だ。


下僕、という響きは分かるのに、その他の事はほとんど思い出せない。


右の手の甲に目を向けると、そこにマジックペンか何かで“0114”と書かれていた。


目を擦りながら、同じものが0823番にも付いていたな、と考える。


私の名前は0114で、昨日から熱を出していて、大叔母さんに心配をかけて、0823番に介抱されている。


分かることは、それだけ。



「お粥、食べないと……」


早く熱を下げなければ。


(でも、熱を下げた後は何をすればいいんだろう…)


何かを考えるとすぐに疑問にぶち当たり、昨日以前の事を考えようとすると猛烈な頭痛に襲われる。


(…取り敢えず、お粥を食べて飴を食べれば大丈夫)


ぼーっとした頭でそれだけを考え、私は震える手でお粥を食べ始めた。



「美味しかった、」


恐ろしい程ゆっくりとした速さでお粥を食べていた私は、何とか空になったお椀を見て満足気にそう呟いた。