ママの手料理 Ⅱ

数秒後、大きな舌打ちをしてパソコンをシャットダウンした彼に、


(よし、釣れた!)


と、内心ほくそ笑んだ俺は、ありがとうさすが俺らの銀子ちゃんだよ!、と、謎の言葉で感謝の意を伝えた。


4つも歳が離れていても、獲物を釣り上げる術を知っていればこちらの勝ちだ。


そうして、バイトに行く為にエプロンを外しながらも、頭をよぎるのはやはり紫苑ちゃんの事だった。









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「おはようございます、0114番様。お熱を測らせて頂きますね」


ぼんやりと靄がかかったような視界の隅に、知らない女性の顔が映る。


「あ、あの、……」


「お話になると身体が疲れてしまうので、今はお控え下さい。…熱はまだありますね。こちらにお粥と解熱剤の飴を置いておきますので、冷めないうちにお召し上がり下さい。介助が必要な場合は、こちらの鈴を鳴らして私をお呼び下さいませ」


流れる様なその声は、私のふわふわした頭を撫でるようにすり抜けていく。


「…あなた、誰、……」


火照った身体を抱き締めるように体勢を変えながらそう聞くと。


「…私は、0823番です。あの方の、忠実な下僕です」


消え入るようなか細い声が、私の鼓膜を揺らした。