ママの手料理 Ⅱ





それは、誘拐される前まで何度も見てきた、彼らのわちゃわちゃした楽しそうな姿で。


全員が胸のつかえが取れたように素の笑顔を見せて笑い合い、ご飯を食べながらまとまりのない会話を続けて手を叩いている。


私が帰ってきてから久しく見れていなかったその光景に、思わず頬が緩んだ。




「紫苑」


朝食後、心もお腹もいっぱいになって大きく伸びをしていた私のところに銀ちゃんがやってきた。


「ん?どうしたの」


満足気に笑って糸目になった私とは裏腹に、彼は至って真剣な顔をしながら何かを差し出してきた。


「お前のスマホだ。パスワードは解けたが、中のものはアルバムに残された写真と動画以外全部初期化されてた。一応俺達の電話番号とグループを追加しといたから後で確認してくれ」


ああ、そういえば私のスマホはずっと銀ちゃんに預けたままだったのか。


私の黒いスマホには、新調されたGPS内蔵キーホルダーが付けられていた。


「わざわざありがとう!これからは無くさないように気をつける」


そう言いながらそれを受け取ると、彼はおう、と頷いて。


「ちなみに、パスワードは823114だった。…あと、アルバムの動画がお前宛てだったから時間ある時に見とけ」


それだけを言い残し、ソファーへ歩いて行ってしまった。