知る由もなかったあの日の出来事が何となく想像出来て、何だか目頭が熱くなってくる。



「…私、あなたの家族じゃない……」


感慨深くなっている俺の耳に、彼女の掠れた声が反響した。


え、と一瞬思考が停止したけれど。


「私の家族は、mirageだから、……」


それは、染井佳乃を拒絶した事による驚きか、それとも俺達を家族だと言ってくれた事に対する安堵感か。


涙のベールに包まれた視界の向こう側、ずっとうずくまっていた紫苑ちゃんがゆっくりと目を開けたのが分かった。


その目は誰かを探すように視線を泳がせ、やがて俺の潤んだ目と交わり。






「ごめんね、皆。…ただいま」






全てを思い出した彼女の声は誰よりも澄み切っていて、そして震えていた。