ママの手料理 Ⅱ

今日の予定まで説明してくれる心優しい家政婦に俺は親指を立てて頷いた後、お盆を持ってそろりそろりとリビングを後にした。



「ねえ、昨日本当に紫苑ちゃんパパの手料理に行かなかったのかなー?何で急にいなくなっちゃったんだろ…」


「仁と航海が来てないって言ってんだから行ってないんだろうが。急に親戚の所に行きたくなったのかもしれねーだろ」


無断で銀子ちゃんの部屋に侵入し、そのままベッドの上を占領して朝ご飯のエッグトーストを食べている俺に、この部屋の持ち主から冷ややかな目線が注がれる。


パソコンで紫苑ちゃんのスマホのGPS信号を捉えようとしていた彼は、駄目だ、と、諦めたように椅子の上で仰け反った。


「昨日もそうだったが、あいつGPSも切りやがった、この様子だと電源自体切ってるな。…そうまでして居場所を知られたくないのか?」


ウェーブのかかった髪をガシガシと掻きむしった彼は、大きくため息をついた。


「でもさ、紫苑ちゃんって両方の家族の親戚達と疎遠なんでしょ?2つ目の所なんてお葬式にも行けなかったじゃん。…そんな酷い人達の所に、今更行きたいなんて考えるかなー?」


パリッと心地の良い音がして、トーストのカスがベッドの上に落下した。