ママの手料理 Ⅱ

(俺はあいつが一夫多妻制を実現するって張り切ってんの知ってるんだからな!それなのにリンちゃんとは別れちゃうし…仁のバーカ!)


心の中で止まらない愚痴を吐き続けていた俺は、取り敢えずおやすみ、とだけ言って自室へ向かって行った。



「……おやすみ、」


後ろから聞こえてきた同じ台詞は、何処か優しさを含んでいた。





ベッドで泥のように眠っていたらしい俺が目を覚ましたのは、太陽が真上に差し掛かっている頃だった。


(ねっむ……)


どうしてこんなに眠ってしまったのだろう、と、俺は寝癖で鳥の巣のようになってしまった髪の毛を手で抑えながら考える。


昨日は紫苑ちゃんと交互でレジ打ちをして、夕方からバイトに行った。


疲れてたけど頑張って走って帰って…、あれ、俺どうして走ってたんだ?


(んー…あ!紫苑ちゃん!)


寝ぼけていた頭が瞬く間に覚醒する。


(帰ってきたかな!?湊は!?)


がばりと毛布を跳ね除けた俺は、髪を直すのも後にして急いでドアを開けた。


「おお、起きたか」


2階の長い廊下を歩いている最中に出会ったのは、階段を上がってこちらに向かってきた琥珀だった。


「あれ、おはよう!今日は仕事遅いの?」