ママの手料理 Ⅱ

いつもの見知った声が、何処からか聞こえてきた。


(!?)


「え…琥珀?」


何故俺がここに居るのが分かったのだろう、と、肩をびくりと震わせて後ろを振り向いたけれど、そこには誰も居なかった。


前は、こうやって後ろを振り向いた時に居たのが紫苑ちゃんだった。


「え、幻聴!?…嘘でしょ俺めっちゃ重症じゃん。こんな事ある?」


辺りをキョロキョロと見渡して首を傾げる俺の頭に聞こえてきたのは、







「…大也、お前なら大丈夫だ」







掠れているものの、いつになく優しい琥珀の声だった。


その低い声が紡ぐのは、“クソ野郎”でも“クソホスト”でもない、紛れもない俺の名前。



幻聴だろうと、琥珀に名前を呼ばれた嬉しさで胸がドキドキと高鳴っていく。


「ははっ、……何もうほんとに、」


(そりゃあ、紫苑ちゃんも気味悪く思うよね……あんな凄い目で見られたの久しぶりだったわ、)


自分の胸に手を当てて心臓の鼓動を元に戻そうと試みながら、俺は大きなため息をついた。


「まじしんど…取り敢えず1回死んで生まれ変わりたい」


何の意味があるのかすら分からない涙が、また俺の頬を撫でる。



どうやらもうしばらく、この公園からは離れられなそうだ。