ママの手料理 Ⅱ

あの真冬の日、紫苑ちゃんに初めてそれを打ち明ける前まで、俺の中には真っ黒な感情だけが渦巻いていた。


そのブラックホールのような塊を取り除いてくれたのは紛れもなく彼女で、俺はそんな彼女に幾度となく救われたのに。



「…駄目だ、帰れない、」


公園に繋がる一本道でようやく走るのをやめた俺は、思い切り下唇を噛み締めた。


一旦頭を冷やして、またいつものポジティブ人間に戻るまでは家に帰れない。


こんなに病んだ雰囲気を醸し出したまま家に帰ったら、待ち構えているであろうリーダーとナルシストに質問攻めにあってしまうだけだ。



あそこで急にあんな話題を出してしまって、皆は何て思っただろう。


もう俺の心はボロボロでこれ以上傷つかないから、笑うなら疲れるまで笑っていて貰いたい。


琥珀は大丈夫だろうか、俺が勝手に想っているだけで彼には害はないんだ。


紫苑ちゃんが、琥珀にまであんな目を向けない事を願うばかりだ。



視界が涙のベールに覆われていて、木も建物もぼやけて輪郭が掴めない。



今頃、皆は紫苑ちゃんの事について話し合っているんだろうな。


紫苑ちゃんがどこまで忘れているか突き止めて、自分達に何が出来るか案を出しているんだろう。