ママの手料理 Ⅱ

感情が高ぶった俺が余計な事を口走った結果、全てを忘れている紫苑ちゃんに軽蔑の眼差しを向けられた、以上。



あの時、


『琥珀、って…この人、?…好き?』


驚き過ぎて息を飲んだ。


彼女のその言葉を聞いた瞬間頭が真っ白になって、背中から冷や汗が流れ落ちて。


心臓はドクドクと嫌な音を立てて早鐘を打ち、息の仕方が一瞬分からなくなった。


目の前に居るのは明らかに紫苑ちゃんなのに、彼女はまるで宇宙人でも見ているかのような目で俺の事を見ていたんだ。


(っあ……、)


今までに数え切れない程見てきたその拒絶の目が俺の目と絡まり合い、瞬く間に手が震えてくる。


知っている、彼女が今考えている事は嫌でも分かる。



気持ち悪い、そんなの人間じゃない。


男が男を好きになるなんて漫画の世界の話で、現実には有り得ない。



遥か昔、何度もそういう類の言葉を投げかけられていたから耐性はついたと思っていたけれど、全くそんな事はなかったようで。


今の紫苑ちゃんは、前の彼女ではないから。


瞬きを忘れて乾いた目から、意識せずに一粒の水滴がテーブルに染み込んだ。


そのまま無理やりに笑顔を作った俺はスマホをポケットにねじ込み、ひらひらと手を振ってリビングを飛び出したのだ。


航海の驚いた様な声にも、返事が出来ずに。