ママの手料理 Ⅱ

「……何でずっと起きてたの」


先に階段を上りながら、俺は数段下にいるナルシストに疑問を投げかけた。


湊はともかく、何でこの人まで起きていたのかまるで理解出来ない。


仁とは話すだけで神経がすり減る気がするから、こんな奴と長時間2人きりで過ごしていた湊が心底可哀想に思えてくる。



「何でって…君が僕にストラップ預けたんだから、僕が紫苑ちゃんに返さないといけないと思って待ってたんでしょうが」



……もっと彼女を心配するような素振りを出したらどうなんだ、こいつは。


しかも遠回しに俺を皮肉っている気がするのは気のせいではないだろう。


(すいませんね俺がお前にストラップ預けちゃって!)


心の中で毒づいた俺の耳に、


「…でも、僕も湊も毎回こうして待ってるんだけど知らなかった?…君がふらっと何処かに行っちゃった時」


先程とは違い、全く棘のない言葉が流れ込んできた。


(…え、)



階段を上りながら、思い返してみる。


…そういえば、そんな気がしなくもない。


紫苑ちゃんを見つけた日は仁は2階にいたものの、あの日を除くほぼ全ての日ーつまり俺が公園に居た日ーは、2人はずっとリビングで俺の帰りを待ってくれていた。


公園で悩み、考え疲れて泣いていたあの時、しつこい程ずっと連絡をくれていたのはこの2人だ。