ママの手料理 Ⅱ

元々0823番に“紫苑”という花の名前は教わっていたから、そう呼ばれる事にあまり違和感を感じなかった。



そしてこの人は昨日、大也という人と一緒に私の部屋に勝手に侵入してきた人だ。


綺麗に色の入ったキャラメル色の髪とその美貌は、1度見たら二度と忘れないはず。


けれど、私は自分の16年の人生でこんな人をを見た事がなかった。


黙って首を振ると、


「嘘でしょ?誰かこの子に何が起こってるか説明して!」


彼はただでさえ二重で大きな目をもっと見開き、そのままぐるりと周りに座る男共を見回した。


「洗脳ってこんなに酷いものなの、航海?」


「……記憶を改ざんさせてしまう事もあるので…。紫苑さんが何処まで覚えているか、にもよりますが」


その隣では、やけに深刻そうな顔をした湊さんという人がサングラスを掛けた男の人と小声で話している。


(早く大叔母さんの所に帰りたいんだけど…)


何だかそわそわしながら、私を取り囲む男達を目だけ動かして見ていると、


「ねえ、そういえば紫苑ちゃんってどうやって俺に電話かけてきたの?」


隣に座る大也さんが、私に馴れ馴れしい口調で話しかけてきた。


「えっ…、あ、何か0823番にスマホっていうのを渡されて、これで外に電話をかけました」


挙動不審になりながらも、私は袖口に隠しておいたスマホを取り出してテーブルの上に置いた。