ママの手料理 Ⅱ

彼の目は、“何とかしろ” そう言っていて。


言われなくても何とかする予定だった俺は運転手から目を逸らし、


「ごめんね、飴嫌だった?もう渡さないからさ、一緒に深呼吸しない?紫苑ちゃん今過呼吸起こしてると思う」


と、優しく彼女の手を握った。


この手を離したら、紫苑ちゃんが砂のように崩れて何処かに行ってしまいそうで。


前にもこんな事があったな、と思いながら、俺はひたすらに話しかける。


「大丈夫、俺の目を見て。そうそうそう、で、息吸ってー、吐く!違う早い、俺の真似して!大丈夫大丈夫、吸ってー、吐く!」


涙を流し、全身を震わせ、苦しそうにしている紫苑ちゃん。


この3ヶ月間、彼女はどんな思いで過ごしていただろう。


「ごめんね、もう少し早く来れなくて…。でももう大丈夫、絶対に大丈夫。俺を信じて」


もういたたまれなくなって、彼女を抱きしめた。


細くて、少し力を入れたらポキリと折れてしまいそう。


俺の腕の中で、酸素ばかり吸収していた彼女がしっかりと息を吐いたのが分かった。


「そう、そのまま吸って、吐いて…吸って、吐く。俺、ずっと此処に居るから大丈夫だよ」



震える彼女をしばらく抱きしめていると、その呼吸が安定してしまいには寝息に変わっていった。