ママの手料理 Ⅱ

(ありがとう、0823番…!)


廊下の中央付近で大量の下僕が折り重なって死んでいたせいで染井佳乃と0823番の姿は確認できなかったけれど、きっと2人は生きていないだろう。


下僕達に対する感謝の気持ちと後悔の念が渦巻く中、俺は裏口から外へ飛び出した。


紫苑ちゃんを早く安全な場所に移したくて、ひたすらに走る。


夜の5月の風は少し生暖かくて、月の光が静かに俺達を照らしていた。




「……任務、完了…!」


ゼェゼェ言いながら大型車の後部ドアを開けた俺は、紫苑ちゃんを後部座席に座らせてその場に崩れ落ちた。


「お疲れさん、お前も乗れ。………紫苑も無事に帰ってきてくれて良かった、」


ドローンで俺と同じ景色を見ていた銀子ちゃんは、珍しく労いの言葉をかけてくれて。


紫苑ちゃんは、銀子ちゃんの感動する台詞を聞いても特に返す言葉が見当たらないらしく、はあ、と曖昧に頷いている。


その返答に、ん?と訝しげに首を傾げた銀子ちゃんに、


「何か、多分誘拐された時のショックか何かで頭が混乱してるっぽいんだよね」


自分で立てた仮説を説明すると、運転席に座る彼は納得したように頷いた。



仁が帰ってきたのは、それから約15分後の事だった。


何度吐いてきたのか、彼の顔は亡霊のように白くなっていて。