ママの手料理 Ⅱ

先程見た下僕になる寸前の少女と同じく、やせ細った変わり果てた姿。


落窪んだ目は光を灯していないけれど、その目がじっとこちらを見ている事は分かった。


「…紫苑ちゃん?」


感動の再会のはずが、驚きの方が断然勝っていて。


最後に見た紫苑ちゃんと今の彼女は、まるで別人だ。


そっとその名前を呼びながら、俺はゆっくりと近付いて行った。


『紫苑さんですか?………それ、鎖、手錠…………あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!』


そんな中、イヤホン越しに聞こえる嬉しそうな航海の声が、突如悲鳴へと変わった。


(何何何何!うるさいな…)


「紫苑、ちゃん…?」


自分の名前をオウム返しに呟いている彼女の目の前にしゃがみ込みながら、俺は思わずイヤホンの音量を下げた。


『駄目!…琥珀、航海からタブレット取り上げて!壊されるよ!』


『嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だああああああ!』


『航海こっち向いて!違う殴らない!僕の事分かる!?聞こえる!?』


「…え、何が起こってるの」


イヤホンからは久しぶりに聞く航海の叫び声と、湊のやけに焦った声。


仁の困惑した様な呟きは、俺の気持ちをそのまま代弁していた。


一瞬何が起こっているのか聞きたくなったけれど、今は目の前に居る紫苑ちゃんを助けなければ。