ママの手料理 Ⅱ

「敵なら居ないよ。って君は何してるのさ、伸びてないで早く来なよ」


先程まで子犬のように震えていたはずの仁は、敵が居ないと分かった瞬間にいつもの元気を取り戻している。


「…さっきまで石像みたいに動かなかったくせに…こういう時だけ憎たらしい…!」


踊り場で大きく伸びをしながら、今は元気なんだから関係ないよ、と口元に笑みを浮かべている仁が心の底から憎い。


「お前っ、さっき俺が手引かないと動かなかったくせに!パピヨンが居ない時に限ってその態度になるの止めてよもう!」


「ええっ、染井佳乃の首を切り裂いてあげたのにその言い方は良くないよ?もっと感謝の気持ちを伝えてくれてもいいんだけど」


「…もううるさい、早くNo.12の部屋行こう」


これ以上ナルシストと会話をしているといつか殴りかかりそうだと判断した俺は強制的に会話を中断させ、むくりと起き上がって廊下を歩き始めた。


俺の数メートル先をドローンが飛び、すぐ横には仁が居る。


『…それにしてもこの廊下、暗くてお化け屋敷みたいですよね』


『そうだな。廃墟になった校舎っていうのが怖さを煽ってんな』


ドローンからの映像を見ているメンバーは、実際に“お化け屋敷”を歩いている俺の気持ちなんかお構いなしにそんな会話をしていて。