ママの手料理 Ⅱ

その言葉は、俺の背中を蹴飛ばすには十分な威力を誇っていた。


「っ……行こう仁!上だ!」


俺は仁の手を握る手に力を込め、くるりと後ろを振り返って走り出した。


流れ弾がいくつも俺を掠めて飛んでいく。


『銀河、もうその映像いらないから2人を追いかけて!早く!』


湊の絞り出す様な声が聞こえる。



俺達の後ろは、果たしてどうなっているだろうか。


最後まで俺達の無事を祈ってくれた0823番は?


俺達の事を知らないはずなのに、数少ない武器を手に取って肉の壁となった下僕達は?


そして、喉を掻き切られても尚銃を撃ち続けている染井佳乃は?



誰かの断末魔の叫びが頭にこだまし、答えを出すのもはばかられる。


「仁走って!階段のぼって!3階だよ!」



俺は仁の背中を押し、1度も後ろを振り返らずに一気に階段を駆け上がった。


今後ろを見たら、精神が壊れると分かっていたから。





「…敵居る?」


走っている最中に誰かの返り血を浴びてしまったらしく、赤がべっとりついた服を揺らしながら3階に辿り着いた俺は、踊り場で倒れ込んだ。


流石に、1階から3階まで3段飛ばしで駆け上がるのは体力がいる。