「ぬあああ有り得ない有り得ない有り得ない…ねえ仁、今からでも遅くないから壱になれない?」


「なれるわけないでしょ、主人格はこの僕だよ?」


どうしても仁と一緒に行くのが嫌な俺は、車の中でも懲りずに駄々をこねていた。


「壱!出ておいで!」


不意に叫ぶと、仁の動きが不自然に止まる。


(これは来た!)


そう期待したのもつかの間、


「壱にならないって何回言ったら分かるの君は、流石に見苦しいよ。そろそろこの僕の前でそんな醜態を晒すのは止めて欲しいね、虫唾が走るから」


と、いつもの調子の仁に鼻で笑われる。


この状態が、車に乗ってから今までずっと繰り返されていた。



「…琥珀ー今からでも参戦しに来れない?お願」


『どうしてお前はいつも騒ぎ立てるんだ、黙って聞いてるこっちの身にもなれゴミクズ野郎、殺すぞ』


案の定、無線機越しに助けを求めたら琥珀の冷たい声が鼓膜をつんざいて。


俺がむすっと頬をふくらませた時、いきなり車が急停止した。


「…お前ら本当にいい加減にしろ、着いたぞ。シートベルト外してナイフと銃の確認、それが済んだらさっさと出ろ」


運転席から聞こえる冷え切った声に、俺は黙って頷いてシートベルトを外した。