ママの手料理 Ⅱ

俺がこんなに嫌がっているのに関わらず、話し合いはいつの間にかお開きになってしまって。


「大也、当日はくれぐれもこの僕に迷惑かけないでよ」


どの口が…!、と思わず言いたくなる捨て台詞を残し、真っ先に席を外したのは仁だった。


(何あいつ…お前が俺に迷惑かけるんじゃん!何言ってるのほんとに…ああ許せないいい!)


仁に対するやり場のない苛立ちがふつふつと湧いてきて、俺はぎゅっと目を瞑った。


琥珀ならまだしも、どうして大嫌いな仁なのだ。


自分が悶々と机に突っ伏している間、1人、また1人とリビングを出て行くのが気配で分かる。



そんな中。


「…航海」


近くの椅子が動いた音がして、湊の静かな声が聞こえた。


「……はい、」


俺の耳が捉えた航海の声は、信じられない程弱々しかった。


「この後暇でしょ?…僕の部屋においで」


「…何でですか」


航海の声は感情がないせいで、湊の提案を拒否しているように感じられた。


「ごめんね」


湊の口からふわりと浮き上がったその謝罪の言葉は、微動だにしない俺の耳にも聞こえてきて。


何となく、此処に居てはいけない、そう思った。