ママの手料理 Ⅱ

そして俺の隣では、あろう事か仁が椅子を引きながらその名前に対してドン引きしていて。


「確かに名前はちょっと変わってるけどさあ、そんなに引かなくても良くない?笑美の話めっちゃシリアスな雰囲気あったじゃん、ふざけないで本当に」


琥珀が驚いているのは許せても仁の態度にカチンときた俺は、憎らしいナルシストをぎろりと睨んだ。


俺の名前はこれまでも馬鹿にされまくっているから慣れているけれど、それでもこの人は最低だ。


俺の言葉を聞いて我に返った彼は、いかにも面倒臭そうな顔をしながらも椅子に座り直した。


「それ、本当なんですか?…だとしたら、紫苑さんは今怪盗パピヨンの染井佳乃さんに誘拐されていて、その場所に0823番が居るっていう事ですよね?なら、紫苑さんが洗脳される前に助け出さないといけないじゃないですか!」


続いて、久しぶりに航海が危機感を募らせた声をあげて。


その感情の籠った声に、俺ははっとして声の主を見上げた。


机に手をついて思わず立ち上がっていた彼は、


「あ…すみません、つい。…ほら、洗脳って駄目だなと思ってしまって、」


ははは、と、棒読みの笑い声を上げながら静かに着席した。



確かにその通りだ。


航海がどうしてあんなに取り乱したのか分からないけれど、紫苑ちゃんが洗脳される前に彼女を盗み出さないと取り返しのつかない事になってしまう。