麻衣のマンションに到着するとオートロックを解除するために番号を打ち込む。

番号は※0910※

麻衣の誕生日だ。

そう言えば、付き合い始めた頃はこのマンションに何度も来てたっけ、ここ数年は俺のマンションに来てもらうことばかりだ。

いつも居てくれる、呼べば来てくれる、それが当たり前になっていて麻衣にばかり無理をさせていたことに気づかなかった。

俺は仕事が忙しいからと

・・・麻衣だって仕事が忙しいはずなのに

そんなことを考えていると部屋の前に到着した。

インターフォンを押すが反応がない、しばらくドアの前に立っていたが人に見られるとヤバい人だと思われかねないため、ロビーに戻って植え込みのレンガに腰掛けた。

しかしここも、入居者からすると俺は充分に不審者状態になっているため、長居はできず諦めるしかない。

何度か電話をしても無視をされる。

一体、なんなんだ?

あきらめて自分の部屋に戻り、ゴミ袋に入っていた物を元の場所に戻してから冷蔵庫からビールを取り出し喉を潤した。

もう一度だけ電話をしてみよう。

今日何度目かの麻衣の連絡先をタップするとようやく繋がった。

「麻衣?」

「何」

「それはこっちが聞きたい」

「今更聞いてどうするの?もう冷めてたんでしょ」

はぁ?誰が誰に冷めたっていうんだ?

訳がわからん

「何を言ってるんだ?」

「男の30歳と女の30歳は違う、クリスマスとか誕生日とか夢を見てた。あなたがプロジェクトリーダーとして頑張っているのも知ってる、だからあまり会えなくても仕方がないと思っていた」

だからこそ

「合鍵を渡しただろ、麻衣が使わなかったんだろ」

「使ったわよ、一度だけ」

「え?」

「渡されて浮かれて食事を作りに行った時、あなたが私をみるなり、構ってる暇はないって言ったの。確かに仕事を持ち帰っていたから忙しいのはわかっていたけどそんなことを言われたらもう使えなくなった。鍵を見るたびにあの日のことを思い出して怖くなった」

「ゴメン、そんなつもりはなかったんだ。麻衣は合鍵を使ってまで俺に会いたいと思ってないのかと思った」

まったく自覚がなかった。構ってる暇は無いって・・・言ったかも知れないが、そういう意味じゃなくて・・・

え?

「あなたに呼ばれれはすぐに行ったわ。それが、身体だけだとしても会えるならよかった。誕生日もクリスマスもあなたの部屋でデリバリーだったけど、それでも二人でいられるのが嬉しかった」

ええええ???

「麻衣からは連絡が無いから日曜日に誘っていいのかわからなかった。身体だけなんて思ってなかったが会えば欲しくなって、そう思われていても仕方がないが、それでいきなりさよならって納得できるわけないだろ」

「私ね、結婚したかったの。でも、あの日二人の関係について聞いた時に どうにもならないって言葉を聞いた時にちょっと絶望したの。あなたは私との未来を考えてないんだって、いつの間にかセフレだったんだって」

あの言葉ってそういう意味だったのか!って、セフレ??

「せ・・・セフレってそんなわけ」

「この一年は夜に部屋に呼ばれてSEXするだけの関係をそう言うんじゃないの。誕生日も忘れられて」

「別に忘れていたわけじゃない。合鍵があるんだから部屋に来てくれればって」

「もういいよ、私の誕生日なんかより若くて可愛い恋人と高級ホテルで過ごす方が大切なんだもの。だから、ちゃんと理解したから。彼女とと幸せになってなんて言わないわ。そんなこと思ってないから。でも、私はあなたたちより幸せになってやるから。だからもう二度と連絡してこないで」

「何・・・」

言ってんだ!?

やっぱり勘違いしてる。

ていうか、俺だって結婚したいし、麻衣と幸せになりたい。

慌てて電話をかけ直すとむなしい言葉が流れてきた

『おかけになった電話番号はお客様の都合でお繋ぎできません』

ブロックしやがった!!