「ハァ〜……。今日のライブも最高だったなぁ」

ライブの帰り道、凛は彼がライフで歌っていた曲を鼻歌で歌いながら歩く。しばらくするとピコンとスマホが鳴り、凛が通知が来ていたTwitterを開くと、「ライブ、来てくれたみんなありがと〜!応援してくれるみんなも、ありがと〜!」という文と共に、楽屋での自撮り写真が投稿されている。

「うぅ〜!かっこいい!」

歌い手バロンを凛が知ったのは、会社の繁忙期がやっと終わり、疲れ切っていた頃である。後輩の女の子に目を輝かせながら、教えられたのだ。

「推しができれば、きっと凛さんの疲れも癒されますよ〜!」

そう言われ、バロンのボカロ曲歌ってみたを聴かされたのだ。男女二人で歌うボカロ曲なのだが、バロンは低くセクシーな男性の声も、高くて可愛らしい女性の声も出して歌っている。男性なのに女性パートも歌えるのはすごいと思い、そこから興味を持ったのだ。

バロンは、長野県出身で凛と同じ二十七歳。身長は百七十五センチで、作詞作曲から編曲までこなせる。動画のイラストでは中世的な顔立ちで描かれることが多いが、実際は垂れ目にふわふわした髪のイケメンである。