それはその通りで。
でも、違うのに。
ただ目を閉じてただけなのに。
それに由都の相手は私じゃないし。
それなのに、触れたくなるって………意味わかんない。
それとも男って、好きな人がいても無防備な女子がいたら手を出すものなの?
「先輩は恋愛経験多いから、男の部屋とか慣れてるんですか」
「ちが、」
「それとも、俺のこと、」
────からかってるんですか。
本気で切羽詰まったような表情に後ずさった先は床で。
そのすぐ横に由都が手をつく。
「この部屋が俺のじゃなくても、そうやって隙をつくるんですか」
「なに言って…」
頭ひとつ分くらいしかない距離。
ほかに漂わせようにも視線の逃げ場すらなくて、ただただ見つめるしかできない。
「…は、なれて、由都」
まるで押し倒されてるかのような構図に耐えきれなくなってそう言えば。
ゆっくり瞬いた瞳が横に逸れて、
「すみません。俺も眠くて、ちょっと……寝ぼけて変なこと言いました」
謝罪と一緒に由都が身体を起こした。
「頭冷やしてくるんで、その間にちゃんと出ててください」
パタンとドアが閉められる。
……そっちが待っててって言ったじゃない。
本当に、意味わかんない。
じっとしてるわけにもいかず、すぐに廊下に出て沙葉の部屋に入る。
頬に指先が触れた瞬間、心臓が音を立てたのも、由都の視線に甘さが含まれてるような錯覚がしたのも、ぜんぶ。
少し舞い上がった花火をした夏の余韻のせいにした。