それは、華恋が明日の仕事に着ていく服を準備している時だった。その様子を見ていた零が、「そういえば」と声をかける。

「華恋の仕事ってネイリストだよね?」

「はい、そうですよ」

「華恋はネイルしないの?」

零に言われ、華恋は自分の手を見つめる。お客さんの爪にマニキュアを塗ったり、ネイルパーツをつけて華やかにするものの、華恋の爪には何もつけられていない。

「ネイルしていたら、家事ができなくなるような気がしてしたことがないんです」

華恋がそう言うと、零が近付いてくる。そして何も塗られていない爪を見つめ、「僕が塗ってもいい?マニキュア」と言った。

「私、マニキュアなんて持ってませんよ?」

華恋がそう言うと、零は「実は買ってきたんだ!」と言い服のポケットから新品のマニキュアを取り出す。人気ブランドのものだ。

「ねぇ、ダメ?」

子犬のような瞳で見つめられ、華恋には「断る」という選択肢が一瞬にして消えてしまった。