溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。

ざわっと空気が揺れた。

教室全体の。

上級生,それもとんでもなく格好いい人が私の名を呼んだ。

それだけで,戸惑いと興味関心が場を掻き回す。

廊下に凪を見たのだろう同級生が何人か,凪の後ろを着いてきていた。

凪のせいで視線が私に集まり,私はグッと下を向く。



「真理,あれ…」



誰だと言わんとするのは分かった。

だけど,前千夏くんが言ってたイケメンだよと答えるほど,私に余裕はない。



「泣いてるの? なんで?」



ふわふわと,場合によっては怒る凪の声がして。

また一つ,ほっと息が抜ける。

凪は何の躊躇いもなく私の前にやって来て,つい退いてしまった千夏くんと真香さんの代わりに,私の至近距離にしゃがんだ。