溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。

なんで寝なかったんだっけ?

ただ起きてたんじゃなくて,凪を待ってた。

なんで?

物事にいちいち理由を求めるのはバカだと思うけど,これにはちゃんと理由があったはず。

そんな風に思う。

あくびを噛み殺して涙をぬぐったとき,頭より先に口が動いた。



「凪に,おやすみって言おうと思って」



言った後反芻して,大きく間違ってもいないような気がした。



「…そっか」



凪は私の手を引いて,ぎゅっと抱き締める。

突然の事に驚いたけど,脳が正常な判断をせず,私は大人しく身を預けた。

凪のそれはどこか,顔を隠すためみたいだった。



「おやすみ,真理」



凪の柔らかい声が,鼓膜を揺らす。



「うん」



…凪の声は温かくて,いつもどこかくすぐったく感じる。