溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。

いつも通りだ。

緊張して,少し損をしたよう,な?

……緊張?

恥ずかしかった。

凪が私以外いないこの家で,泊まると知って。

でも,そんな,違う。

やっぱり,今のは嘘。

気のせいだよ……そうだよね……?



お昼は,凪が作ってくれた。

匂いにつられた私をみて,凪が一言。



「作りながら考えてたんだけど……」



一拍置かれたその間に,私は顔をあげたけど



「お嫁さんって良い響きだよね」



機嫌の良さそうな声に,満面の笑み。

私はほんのちょっぴり後悔をして,そのまま黙って背を向けた。

そしてご飯を食べる机を前に,椅子に座った。



「美味しそう…」



やがて綺麗に盛り付けられた皿が運ばれて,私はポツリとこぼす。

少し語尾があがったかもしれなかった。



「そう?」



嬉しそうに微笑む凪を前に,フォークでくるくる。
トマトスパゲティーで,すごく美味しい。



「凪の手料理なんて,はじめて食べた」

「そうだった?」

「うん」



そんな他愛ない話をして,時間だけが過ぎていく。

ほんとに,私は何に躊躇していたんだろう。



「手,止まってるよ。もうお腹一杯?」



フォークを持ったまま考え込んでいたわたし。

凪はそれを指摘して,だけど嫌な顔せず微笑んでいた。



「食べないなら…食べちゃうよ?」



凪の綺麗な顔に見惚れていると,凪は意地悪く笑う。



「えっやだ!」



私は咄嗟に,声をあげていた。

あとちょっとなのに…

私の顔を見た凪は嬉しそうに笑って,



「でもちょっと待って」



と,私に手を伸ばす。

そして,



「赤いの,ついてる」



と,腰を浮かせた。