溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。

「あ,ねぇちょっと待って」

「……なに?」



ずっと意図することなく鼻が鳴る。

私が首をかしげると,千夏くんはぐるりと顔を回して。



「……真香? いる???」



ぇ,真香さん?

一体千夏くんは何を言うのだろう。

人の気配なんてなんにも……

そうおろおろした私に構わず,真っ直ぐ歩いていく千夏くん。

下駄箱横の柱を通り過ぎたその横。

千夏くんは校舎の壁へと身を乗り出した。



「何でまだ隠れてん……どうしたの真香」



くっくっと千夏くんが誰かの手を引っ張るのが見える。

まさか本当にと思っていると,千夏くんに様子を窺われながら真香さんが現れた。



「ご,めん。今ちょっと……情報多すぎて,情緒,死んでっ……て……」



真っ赤な顔,はらはらと真っ赤な瞳。

ぽろぽろと溢れる涙を見て,私は息を呑んだ。



「どっ,えっ……どう……っ!??!」



話を聞いていたなら,2割位気持ちが分からないこともない。

でも号泣する真香さんの気持ちを全て図るのは,少し難しいと思う。