涙をこぶしで強引に拭いて。
私は駅舎に視線を向けた。
「また泣いてンの?」
ふいに背中から声が聞こえた。
他の誰でもない、西原くんの声。
ゆっくり振り向くと。
駅前のコンビニエンスストアの袋を持った西原くんがいた。
安心と。
嬉しさと。
ときめきがごちゃ混ぜになった恋心が。
どっと胸いっぱいに押し寄せてくる。
「田畑さん、大丈夫?」
西原くんが私に近づいてくれた。
……そうだ。
夏のはじまりのあの日も。
コンビニエンスストアで会ったあの日も。
今日だって。
西原くんは近づいてくれていた。
遠い存在だって。
決めつけていたのは、私。
だけど。
近づきたかった。
本当は、私からも。
「好き」
たったひと言だけど。
こんなにも的確に、今の気持ちを表す言葉を。
私は他には知らない。