ひとりぼっちの教室は。

どうしてこんなに心許(こころもと)ないんだろう。

広くて。

何にも縛られてないから。



かえって息苦しい。



「帰らなきゃ……」



手の中には夢にまでみたガム。

私のほしかったもの。

西原くんとの「おんなじ」。



だけど。

なんだか今は。



(ちっともときめかない)



嬉しくて。

泣くほど嬉しくて。

どうしても手に入れたかったものなのに。



(何かが、違う)



とぼとぼと、ゆっくり教室を出る。

じんわり汗が出てくる暑さの廊下を。

小さな歩幅で進んでいく。



まるで悪い夢の中にいるみたいに。

足元が頼りない気がする。



頭の中では。

西原くんのあの表情が貼り付けられたみたいに、離れない。



困ったような。

寂しい表情。



西原くんに。

あんな表情をさせたくなかった。