「ゆっくりでいいから」
教室のドアの前で。
西原くんが言ってくれる。
優しい声で。
(本当に、王子様だ)
ときめく心を制服越しにおさえこむ。
(ダメ)
これ以上は望んじゃ、ダメ。
これ以上は踏み込んじゃ、ダメ。
だって西原くんは王子様だから。
遠い存在なんだから。
すみっこの私なんか、隣には立てない。
(前からわかってたじゃない)
そうだよ。
だからほしかったんだよ。
「おんなじ」が。
選ばれなくても。
強く生きていけるように。
「私、もう少し教室にいます」
西原くんに言った。
「あの、先に帰っててください」
「え?」
西原くんは一瞬戸惑ったような表情をして、
「オレ、田畑さんに何かした?」
と、聞いてきた。
(え?)
「気に障るようなこと、何かした?」