目を開けた瞬間、その光景は、幼い私には悪夢でしかなかった。
横倒しになった馬車から、なんとか這い出せば、外の世界はただ赤く染まっていた。
むせかえるような熱気と、炎、そしてもう誰のものか分からない血の海。
先ほどまで繋いでいたはずの母の手はない。
「だれか……お母様……」
辺りを見渡しても、横転した馬車の中にも母の姿はない。
振り絞る様に出した声も、この怒号の中では誰も気づきはしないだろう。
逃げなけれな。
本能でそう思うのに、足が地面に張り付いたように動こうとはしない。
目の前にいるのが、自国の騎士なのか、それとも違うのか……。
それすらも分からない恐怖。
「ああ……」
「王女殿下」
ふいに後ろから大きな声をかけられ、振り返る。
黒い髪に、灰色の瞳。
城を出発する前に、お父様から直接紹介された若き護衛騎士だ。胸にはもちろん、我が国の紋章がある。
横倒しになった馬車から、なんとか這い出せば、外の世界はただ赤く染まっていた。
むせかえるような熱気と、炎、そしてもう誰のものか分からない血の海。
先ほどまで繋いでいたはずの母の手はない。
「だれか……お母様……」
辺りを見渡しても、横転した馬車の中にも母の姿はない。
振り絞る様に出した声も、この怒号の中では誰も気づきはしないだろう。
逃げなけれな。
本能でそう思うのに、足が地面に張り付いたように動こうとはしない。
目の前にいるのが、自国の騎士なのか、それとも違うのか……。
それすらも分からない恐怖。
「ああ……」
「王女殿下」
ふいに後ろから大きな声をかけられ、振り返る。
黒い髪に、灰色の瞳。
城を出発する前に、お父様から直接紹介された若き護衛騎士だ。胸にはもちろん、我が国の紋章がある。