葵君のスケーティング技術、随分上がったと私でもわかる。

 スケート一歩一歩の伸びがよく、安定している。

 繊細なのに力強い。そしてスピードがある。

 ピアノの音に合わせるように、四回転トゥループと三回転トゥループのコンビネーションジャンプ!

 ランディングまで綺麗に決まった!

 凄い! 凄いよ、葵君!

 フライングキャメルスピン。綺麗なドーナツスピンに。伸ばした片手の指先まで神経が行き届いていて美しい。

 ああ。なんて綺麗なんだろう。

 ステップシークエンス。片足で長く刻むステップ。深く刻んでるのに滑らかだ。上半身も良く動いてる。何よりよく音を捉えている。

 表情もとてもいい。葵君、演技にしっかり入り込んでいる。まるでピアノを奏でているみたい。

 最後のジャンプは葵君の得意なトリプルアクセル。

 高い!

 流れがあって途切れることがなかった。曲の中にジャンプが溶け込んでいる。

 最後のスピンを見終えて、私は拍手をするのも忘れてぼうっと葵君を見つめることしかできなかった。

 涙がこみ上げてくる。

 葵君の全力の演技。こんなにも胸が震える。

 葵君が私のためにこれだけ素晴らしい演技を見せてくれた。

 もう、それで十分だと思えた。

 私、葵君を好きでよかった。

 葵君は時に眩しすぎるほどで、自分と比べると辛くなる時もある。

 でも、それが葵君の輝き。
  
 心の闇まで溶かしてしまう葵君の魅力なんだ。

 私は自分が浄化されたような不思議な気持ちになっていた。