「沙羅! 王子が登校してたでしょ? 会えた?」


 親友のともちゃん――柳朋子――が教室に入ると話しかけてきた。


「うん……」

「何? 冴えない顔」


 ともちゃんの言葉に私は慌てて笑顔を作る。


「そ、そんなことないよ? ただ、葵君どんどん人気者になって行くなあと思って」

「ま、今じゃみんなの王子様だからね」

「そうだね……」

「ほら、元気だしなって! 沙羅と王子は幼馴染なんだから」


 ともちゃんの声に私はどきりとして周りを見回す。


「ともちゃん、声大きい! それは内緒なんだから。それに、昔は幼馴染だったかもしれないけど、今は……もう特別ではないんだよ」


 ともちゃんの耳に囁くように言って、自分の言葉に悲しくなった。

 幼い時は二人っきりで一緒に遊んでいた。お互いが特別だと信じて疑わずに。

 でも、もう葵君にとって私は一人の先輩でしかないはずだ。きっと特別だと思っているのは私だけ。そんなの分かっている。分かっているけど、やっぱり悲しい。


「沙羅……」


 ともちゃんの悲しげな声に私は無理矢理笑顔を作った。


「ともちゃん。そんな顔しないで。授業始まるよ?」